「適量の飲酒」と健康との関係性に新見解 「酒は百薬の長」ではない?!


「酒は百薬の長」という有名な言葉がある。酒好きにとっては、飲む理由として大変便利な言葉で、医師といえども正面切っては反論できない。この言葉を裏打ちするのが「Jカーブ効果」だ。横軸に1日平均飲酒量、縦軸に死亡率(飲酒習慣がない場合を1とした場合の相対危険率)をとってグラフを描いたものである。

「酒は百薬の長」はウソなのか?1
Holman CD, English DR, Milne E, Winter MG (1996) Meta-analysis of alcohol and all-cause mortality: a validation of NHMRC recommendations. Med J Aust 164: 141-145.

このグラフを見てわかるように、少量の飲酒をする人は、全く飲まない人に比べて死亡率が低くなるという結果になっている。死亡率が最も低くなるのは、男性では1日アルコール量で20g以下の群。これは、ビールで言えば1日500mlの缶1本以下、日本酒で言えば1日1合以下、焼酎では1日100ml以下に相当する(女性の場合は、おおむね男性の半分の量)。飲酒量が増えると死亡率は上昇し、男性では1日40g、女性では1日20gより多くのアルコール量を飲酒すると、全く飲まない人よりも死亡率が高くなる。1日60g以上の飲酒する男性では、全く飲まない人に比べて死亡率は1.4倍にもなる。

これは主に欧米人を対象にした研究の結果だが、日本人を対象とした研究でも、おおむね同様の結果が出ており、グラフの形がアルファベットの「J」に似ているので、少量の飲酒によって死亡の危険率が下がり、さらに量が増えると逆に危険率が上がる効果のことが、「Jカーブ効果」と呼ばれるようになった。しかしこの効果については、従来から、以下のような問題が指摘されてきた。

1.相関関係=因果関係ではない

Jカーブ効果は、主に多くの人を一定期間調査してデータをとるコホート研究で得られたものである。コホート研究では、少量飲酒者の死亡率が低いことは言えても、飲酒と死亡率の因果関係はわからない。例えば、全く飲まない人の中に、元々健康を損ねている人がいるなどの理由で非飲酒者の死亡率が高いと、少量の飲酒者の死亡率が見かけ上低くなる。

2.Jカーブ効果がない疾患もある

死亡率を下げる1番の要因として、心筋梗塞などの虚血性疾患で死亡するリスクが下がることが挙げられる。しかしアルコール性肝障害を始め、効果がない疾患も多い。しかし、疾患毎の飲酒量―死亡率曲線が提示されることは少ない。そのため、効果がない疾患を持っている人まで、「少量飲酒した方が良い」と誤解を生むことにつながる。

「酒は百薬の長」はウソなのか?2

3.研究結果の誤用

研究結果は、大量飲酒者が節酒する動機付けとなる資料として用いられるはずだが、実際は、断酒が必要な人が飲酒する理由に誤用するケースが後を絶たない。

4.飲酒習慣を続けると、量が増えて、Jカーブ効果がなくなる

アルコールは続けて飲むと耐性が生じ(酔う効果が弱くなり)、量が増えていく可能性がある。一旦生じた耐性はなかなか無くならない。

以上のような疑問は、多くの人達が持っていたもので、賛否両論の研究報告が、その後もなされてきた。そして、最近、それらの総集編ともいえる研究論文が発表され、話題となっている。研究をまとめたのは、オーストラリア国立薬物研究所のターニャ・クリスティー博士らのチームだ。国際アルコール薬物研究誌「JSAD」の2016年3月号に発表した。

クリスティー博士らは、メタ解析という方法を用いた。これは、調べようとするテーマに関連する過去の論文を網羅的に集め、研究方法や結果の妥当性を吟味するものである。この研究では、酒と健康の関連を調べた過去の論文87件を分析した。その結果、「重大な誤りに気づいた」という。「過去の論文の多くが、病気が原因で禁酒している人々のことを考慮の対象から除外している」というのだ。博士によると、酒を飲まない人々の中には次の事情の人がいる。

(1)糖尿病や心血管疾患などの病気で医師から禁酒をさせられている人。
(2)そのほかの病気を患ったり、もともと体が弱くて飲めない(あるいは飲まない)人。

こうした人々は早死にする可能性が高いのに、酒を飲む人と全死亡率を比較する際、統計に反映されてこなかった。そこで、「病気による飲酒」を考慮しない論文をすべて除外し、残りの論文を改めて分析し直すと、「適量の飲酒が、酒を飲まない人より健康的で長寿をもたらす」という結果は得られなかった。これまで酒好きを喜ばせてきた多くの研究は、最初から「統計ミス」によるものだったというわけだ。

クリスティー博士は「病気による禁酒を考慮しなかったことが、飲酒の健康への影響を見誤らせてきた。また、適度な飲酒のおかげで健康になるという見方も、原因と結果を取り違えている。健康だから酒を飲めるわけで、その逆ではない。過剰に酒を飲むとアルコール依存症になることを考えると、ほとんどの人にとって飲酒量は少ないほど良い」と語る。

また今回の研究で、もっとも健康によい「適量の飲酒」は、「10日間の合計アルコール摂取量が1ドリンク未満」だとわかった。「1ドリンク」とは、医学用語で約10グラムのアルコール量をいう。ビールなら中ビン半分、日本酒なら0.5合にあたる。酒好きにとっては、1日の飲酒量としても1ドリンクでは物足りない。ましてや10日間で1ドリンクは、「飲んでいない」に等しい量である。

この研究結果に対して、さらに賛否両論の意見や研究報告が出てくるであろう。筆者は、大量飲酒による合併症を患っている人に節酒や断酒の動機付けを行う際のキーワードとして、「Jカーブ効果」の効用は認める。一方、前述したような理由から、本来の目的とは逆に誤用されているケースをあまりにも多く見てきた。誤用されていると考えられる人には、本研究のことも伝えて、各人が、正確な判断を下せるように支援していきたい。
 

寄稿記事
NEWSALT 【コラム】「適量の飲酒」と健康との関係性に新見解 「酒は百薬の長」ではない?!(前編)
NEWSALT 【コラム】「適量の飲酒」と健康との関係性に新見解 「酒は百薬の長」ではない?!(後編)

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